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ラブレターフロームカナダ

ラブレターフロームカナダ

幸子の日記,1~20話

第1話、渡航

もうとっくの昔に嫌になってた。
彼の匂いとか彼の声。
顔を見ればむかついた。
調子の良すぎる声に、屈託のない笑顔。
それで私は騙され続けた。

親のコネで商社に入社した。
親もきっと結婚のこととか考えて
商社にこねを作って私を入れたんだろうけど、
最初にできた男は隣の部署の10個も年上の妻もち子持ちだった。
仕事もできて、かっこいいから
付き合い始めたけど、商社のくせに自由なお金が無かった彼。

ラブホのお金はいつも私持ち。
晩御飯はいつも会社の領収書を切る。
週末は一人で過ごすこと10年が過ぎた。
新入社員から10年間も彼に尽くした結果、
30歳になった私に

「事業始めたいからお金貸してくれない?
いくら持ってる?」

「お金貸すから私の青春返して!」
って最後に言ってやった。
それでもあの男はしつこく食い下がり
私は100万貸してやった、きっと返ってこないと
分かっていたのに。

こんな男との腐れ縁を切るため、
カナダに英語勉強目的で来た私。
というのは口実で、
30歳にもなって、不倫している私を負け犬呼ばわりした人
たちに、
そうあの男に、会社の同僚に、私の親友まで私を馬鹿にしてた
そんなやつらに、白人の彼氏を作って見返すためにやってきた。
イエローキャブといわれようが頑張ろうと決心して
海を越えてきた。

もう後が無かった。


第2話、嘘

海を越えた私は、
バンクーバーにあるESLに通った。
私のクラスにいる子達はほとんどが20代前半、
私は自分の年齢を4つ偽り、皆に26才だと行った。
私のクラスは日本人とコリアンばかりだった。
かっこいいコリアンもいたが、
私は相手にされなかった、
きっと目じりの横のしわと10年間愛人だった
このおどおどした性格が彼らを寄せ付けなかったのだろう。
私は自分を27歳だといったが、
私の顔はあの既婚男に生気をすいとられ、
すこし老婆顔になっていたのかもしれない。
カナダに来てもまともに男に相手にされない私は、
その言い訳として、年下の女の子達にいつもこう言った。

「男なんてしばらくいらないわ、今は英語を勉強しないと、
仕事のスキルアップのためにね、恋愛なんていつでもできるし、
いまするなんて、くだらないこと、自分を見つける旅に
でてきたんだから」

苦しい言い訳だった。
きっと彼女らも老婆顔から出てくるこんな言葉を
信じているはずはないだろうに、私は
延々と自分がキャリアウーマンだと演じつづけた。


第3話、地味


私は、見た目は普通の女だった。
そんな派手な格好なんかしていなかった。
服はほとんど日本のユニクロで買ったものだった。
クラブに行くにもそういう服装は持ってなかったけど、
友達に誘われてクラブに行くときはユニクロの
服を着ていってた。
ユニクロの服でもちょっとシンプルな上下にサンダルを
履けば、夜のディナーにいけそうな感じになってた。

その日もクラスの子たちとバーにいった。
コリアンの男の子3人と、
私達日本人の女の子2人と。
最初は皆で騒いでいたが、お酒が進むにつれて、
そのコリアン3人ともが私の友達目当てだったことがわかった。
彼ら三人の姿勢が彼女に向けられていたのだ。
私は一人のコリアンの背後になってしまい、
会話に入れない状態になっていた。
だんだんしらけてきて、
窓の方に目をやると、
すごく疲れた女性が見えた、私だった。
その後ろで楽しそうに騒ぐ若者達、
なんだか惨めな気持ちになり、下を向くと、
ミラーボールに照らし出される私の素足にサンダル、
かかとががさがさ、、

「もう私には油さえも残ってないのか?」

私のかかとは、私をもっと惨めな気持ちにさせた。

そんな私を勇気つけるために
カクテルを一気に飲んで
昔、告白してくれた男の子のことを思い出してた。
すごく誠実でやさしい彼だったのに会わないようになった。
理由は、2流の商社に勤めているのと、
ちょっとデブ気味だったのが気になっていたが、
彼の胸に飛び込んでもいいかと思えた頃、
妻子もちの彼が私を彼から突き放したのが原因で
駄目になった。修羅場だった。

あの時、あの彼に救いを求めていたら、
今、惨めな気持ちにはなってなかっただろうな。
そんなことばかり考えていると
私は息が苦しくなり、
バーを出て一人で帰った。
無理してるな、私って。


第4話、独身男性

あるパーティに誘われた。
友達のカナディアンの家でハロウィーンパーティが
あるらしい。
余りでしゃばったカッコも嫌なので
頭にトラの耳と
お尻にウサギの尻尾をつけていった。

そこで知り合ったカナディアンの男性、
ちょっと年上そうだけど、お金もってそうで
背も高い、、、
私は相手が好き、というより、自慢できるか?って
いうめがねをかけながら相手をみていた。

その日、そのまま彼の家に着いていった、
しばらく男の人に抱かれていなかったので
自分が女なんだ、まだ私を抱きたい男がいるんだ、
それもこんなにカッコいい男性が私を求めてるんだ、、
そんなことを再確認するために着いていったのかもしれない。

彼は今時の素敵なアパートメントに住んでいた、
エレベーターに乗って彼の部屋に着くまでに
私はそのアパートが持ち家か?ローンはどれくらいまで
はらったか?なんて事を聞きながら、
すごく短い間に私がそこに妻として住むことを想像した。
ローンの無い家、、、。

部屋のドアを閉めるなり、
彼は私にむさぼりついてきた、
私もかれのするがままに身を任せた。
ひと時の情事が終った後、
私は少し悩んだ、、

「ひょっとして私はマグロだったかも、、」

もしマグロだったとしても、彼は今私を優しく抱いてくれる、
考えるのは明日にすることにして、
その日はそのまま目を閉じた、、。
不眠症だったのに、その日はぐっすり寝れそうな
気がした。
このまま朝が来なくていいと思った、
そのまま彼の腕の中で死んでもいいと思った。

ちょっと男に優しくされただけで
死んでもいいなんて、私も年をとったのかな、、、
涙がでてきた、、、、。

第5話、傷

「ねえねえ幸子、
カナディアンの彼氏のお家にいつよんでくれるの?
あってみた~~い」

と、かわいいうさぎさんが鼻から抜けるような
甘ったるい声で聞いてきた。
彼女はかわいい、クラスのコリアンにも人気がある子だ。
彼女の近くに座ると、甘いシャンプーの匂いがした。
彼女の潤った唇に、化粧の乗り切った肌、
同性から見てもちょっとどきどきする、、

「彼女とだったら寝れるかも?」

と 少し彼女にときめいているレズな自分を発見した。

クラスのみんなはカナダ人の友達を喉から手が出るほど
欲しがっていた。
クラスの子、数人にもねだられ、
ついにとうとう彼をお披露目することにした。
彼の方も、私の友達に会いたがっていた。

結局私は日本人の友達4人と、コリアン3人を彼の
家に呼んだ。
彼はすごく楽しそうにして、みんなにメールアドレスを
聞いていた。
彼は

「来週もみんなで一緒になにかしようよ」

と最後にみんなに向かって言っていた。

そのパーティ以後、
二人で合うことは無くなった。
分かりきっていたことだが、
崖の天辺からではなく、
中腹から突き落とされた感じがした。
そう、天辺までは上っていなかった。
30過ぎた自分を守るため
私も必死だった。
情けない、これ以上傷つくハートなんてないと
思っていたのに、まだ傷がつくスペースがあったとは、、、。

第6話、迷宮

それでも私は彼にしがみつこうとした。
付き合ってすぐに捨てられるなんて
クラスの子達にどう話していいのかわからなかったのと、
すでにI’m falling love with himだったからだ。

その時私はホストファミリーの家に住んでいたのだけど、
そこを出て一人暮らしをすることにした。
普通は月末に出て行くのだけど、
私は早めに追い出された振りをして、彼のアパートに
月末まで泊めてもらうよう頼んだ。

彼は優しかった、断らずに引き受けてくれた。
これが私にとっての最後の賭けでもあった。

彼の家に引っ越した最初の夜、
シャワーを終えた後、勝負下着を着た。
上下ピンクのかわいらしいセットだ。
少しシースルーの部分もあり、ピンクと言ってもセクシーなデザインだった。
彼の家に引っ越す前にBAYCENTREで大金はたいて買ったものだ。

その後、彼の寝室へ向かおうとした
その時、
彼が

「話しがある、、」

私は勝負下着のまま、キッチンの椅子に座った。
直立に立っていると分からないが、
座ると下腹の肉がたるんでいるのが良く分かった。
それを隠すようにお腹を引っ込めて彼の方を見た。

「え、、、と、幸子は美人で賢くて大好きだ、とても
すばらしい女性だと尊敬している、
ただ、僕達、友達だよね?」

勝負が始まる前に私は負けていたのだ。
私はそのまま彼が用意してくれた
ソファーベッドで寝た、勝負下着のまま。
すごく自分がこっけいで惨めに思えた。

彼と最初にあった日に感じた喜び、彼のぬくもり、
あの暖かいベット、、
それは、2,3mも歩けば手の届くところにあるのに、
きっと私は一生あそこにたどり着くことはないだろう、、

「幸子 in the wonderland」出口がない。
ただ出てくるのは涙だけだった。 

第7話、逃走

彼は1週間に1回は会ってくれた、
やさしい人だった。
お茶をしたり、私に英語を教えてくれたり、
お酒を飲みにいったり、、、。
でも彼は二度と私には触れてこようとしなかった。

学校でも私は偽った、
まだ彼と付き合っている風に装った。
実家の両親にもカナダ人の彼氏ができて、
プロポーズもされていると伝えてあったので、
両親にもつくろわないといけなかった。

ある日私はロブソンあたりを一人でぶらぶらしていた、
今度彼とお茶するときに来て行く服などを見ていた。
すると一軒のお店から同じクラスのウサギちゃんが出てきた。
その後ろには大きな紙袋を持った彼の姿が。

全ての謎が解けた、、、
そうあの日から彼は私に触れなくなった、
そして私達の関係をおさらいする様に

「僕達は最初から友達だったよね?」

と 彼は何度も私に問いかけていた、、。
全てはこの為だったのだ。

私は逃げるように背中を丸め、ダウンジャケットの襟に
顔をうずめて逃げた。

後日彼とお茶をした。
彼は私にシルバーのペンダントをくれた。
私が
「どうして?」と聞くと

「この前君が逃げていくのを見たんだ、、」

そうウサギちゃんはいつも私が話す「彼」の話を
楽しそうに聞いていた。
今思えば余裕たっぷりの笑顔だった。
私はいつもハズレくじを引く、
そしてこの手の女がいつも当たりくじ。

ずっと前、妻子もちの家の前でストーカー行為を
していたとき、偶然彼の奥さんを見たっけ。
そういえば、彼の奥さんもこんな笑顔してたな、

いつも人目に触れないように逃げている私、
30歳にもなったのに、なにやってたんだろう、、。 

第8話、旅行

その次の日曜日、
英語を教えて欲しいと彼に頼んだ。
それと話もあるのであなたの家で教えて欲しいと言った。
彼はしぶしぶながらOKをだしてくれた、
多分ウサギちゃんと予定があったのだろう。

土曜日の夜から決めていた、
日曜日は女優になろうと。
今までできなかったわがままな女になってやろうと。

私は彼の家で彼の目の前で泣いた。
どうやったって彼は逃げていくんだから、
泣いたらどうなるか試してみたかった。
きっと優しい彼は、私が泣けば抱きしめてくれるだろうと
思った。
そして、かれは抱きしめてくれた。

そして彼は約束してくれた、
ウサギちゃんとは友達で、これからも付き合わないと。

「来週は月曜から出張なんだ、来週はちょっと会えないかな」

彼と2週間も会えないのは辛かった。

月曜日、クラスにウサギちゃんの姿がなかった、
火曜日も、水曜日も。
嫌な予感がした。
水曜日、居ても発っても居られず
公衆電話で何度も何度も彼の家に電話した。
家に帰ってからも何度も。
ウサギちゃんの住んでるホストの家にも電話してみた。
すると

「well, Usagichan is not here,I guess she went to LOS.
she said that her friend paid everything for the trip so,
she looked so happy..」

うさぎちゃんのホストペアレンツの娘の声だった。
長い1週間だった。
泣いて泣いていっぱい泣いて待つのを止めた。

もう時間もない、次を探そうと奮い立つことにした。
今年のクリスマスもまた一人だ、
クリスチャンでもないのに、
どうしてそんなに私はクリスマスにこだわったのだろうか?

第9話、学生の彼

私はいつも笑ってた、
心はからからに乾いてひび割れているのに
いつも笑ってた。

普通の女性が手に入れる、普通の幸せを
私は手に入れることができない、
これは自分の試練なのかなんなのか、
考えても考えても答えはみつからなかった。

週末は一人で過ごすことが多くなった、
クラスの催し物に参加してもはみ出してしまう私。
ウサギちゃんも私を遠ざけるようになり、
ウサギちゃんのお友達達も
私を避けるようになってきたからだ。
居場所がみつけられなかった。

私はよくコーヒーショップで英語の勉強をした。
一番落ち着ける場所でもあった。
ある日曜日、
いつものように英語の勉強をしていると、
誰かが声をかけてきた。
彼は、私がいつもここで英語の勉強をしているのを
見ていたというのだ。
ちょっと若そうな彼、
沢山の本を抱えていた。

「これって何の本?」

と私が聞くと、
彼は

「僕ね、まだ大学生なんだ、といってもね、27歳なんだけどね、
歯医者になるために僕も毎日勉強しているんだ」

彼の笑った顔から見える真っ白な歯は素敵だった。

期待は絶対したくなかったが、
何か起こればいいな、と思った。

彼は

「来週は一緒に勉強しよう」

と言ってくれた。

何かが起こった、
でも期待するのはまだ早い、
山を早く上ると、落とされたときに大怪我をする、
今度はゆっくりと、周りの景色を見ながら上って行こうと決めた。

そう決めたのに、
その日に彼の部屋まで着いて行ってしまった。
自分が嫌になった。 

第10話、乾き

朝起きると、彼は横に寝ていた。
目覚めた私のほっぺにキスをしてくれた。

そのキスは、からからに乾いていた私の喉を
潤す飲み物のようだった。

月曜日だったので学校に行った。
授業を終えた後、学校にあるインターネットの部屋に
向かった、メールチェックするためだった。

いつものごとく、妻子もちの男からも
メールが来ていた、

「帰ってきて欲しい、やはり君がいないと駄目だ」

他にも日本の友達からもきていた、

「例の彼氏とはうまくいってる?写真送ってよね」

その中に見慣れないメールアドレス、
ゴミ箱に捨てようか悩んだけど、
開けて読むことにした。

無記名のメール、内容は最悪だった、、、。

「みんな知ってるよ、
 あなたがあのカナディアンに遊ばれていたこと、、。
 何故彼があなた付き合いたくなかったかしってる?
 あなたのセックスってね、最悪だったんだって
 それにあなたの体臭が合わなかったんだって、、」

「やはりまぐろだったんだ、、」ため息つきながら
独り言を言ったらまた喉が渇いてきた、、、。
いつこの喉の渇きはおさまるのだろうか?

この十数年、自分の喉の渇きをずっと無視してきた、
無視してもやっていけてた、
でも最近は乾きにたえれなくなってきてる、
でもどうやって潤すかが分からない、、
疲れた。

第11話、不安

それから、大学生の彼とは頻繁に会うようになった。
俗に言う、彼氏、彼女の関係になったんだと思った。

クラスのみんなにはこう言った。

「新しい彼氏できちゃった!
 彼ね、将来歯医者希望なんだって、ちょっとね若くて
 かっこいいの、、」

それを聞いていたウサギちゃんの眉間にしわがよっていた。

きっと彼をうさぎちゃんに紹介すればすぐに取られるだろうな、、
そんなことはもう勉強済みだったので、
絶対紹介しないように決めていた。

前の彼の名前がマイク、
今度がジョン、
田舎の両親には、マイクはミドルネームだと
嘘をついた。

彼もとっても優しかった、
いつも私だけをみてくれてた、
毎週一緒にいつも勉強した。
これでクリスマスは彼とすごせる、、、
30年間生きてきて、
初めて彼氏と呼べる人とクリスマスを過ごせそうな
予感、、、
とても幸福を感じた、そして彼を信じようと思った。

私は一人ロブソンどおりを歩いた。
彼のクリスマスプレゼントを探すためだ。
男性用のお店に入り、男物の服を手にする、
店員や周りのみんなは私は彼氏へのプレゼントを
探していると思うだろう、
そう思われることの幸福感に浸っていた。

ふと店を見渡すと、
うさぎちゃんと彼がいた。
私は自分から寄って言って、挨拶をした。
二人はびっくりしていたが、
私は「HI」と言えた、逃げなかった。
ジョンが私を少しだけ強い女にしてくれていた。

ちょっと強くなれた自分を
その時はすこし誇りに思えた。

自分がちょっと強くなれたのも、
ジョンのおかげ、でももしジョンがいなくなれば
きっと、私は弱い老婆顔の女に戻るんだろう、、
ふとそんなことを考えた。
バスの外はクリスマスのイルミネーションでにぎやかだった。

私は幸せなはず、なのに
なぜ、素直にクリスマスライトを楽しめないのか
自分でも分からなかった。

第12話、期待


「I really want to spend time with you at Xmas.
so i should go back east to see my parents.then I will come back to you before Xmas...」


ジョンがそういった。
ジョンは東から来ていた。
私は彼の言葉をそのまま信じ、
クリスマスを彼と過ごせると思った。
ジョンの言葉は私をすごく舞い上がらせた。

「じゃあ、あまり高いのは買えないけど、クリスマスツリー
 とかの用意しておくね」

夢の中にいる気分だった。

彼は3日後に出発して、
1週間東に滞在、
その後すぐにここに戻ってくるという。

「えっと、ちょっと言いにくいんだけど、600ドル
 貸して欲しいんだ、もちろん今月の給料がでれば必ず
 返すよ」

彼は深夜のピザ屋で働いていると言っていたが、
場所は教えてくれなかった、
見に来られると恥ずかしい、という理由だった。

600ドルなんて私にはちっぽけなお金だった。
10年間両親の元で暮らし、妻子もちとのデート以外は
全部貯金していた。いつもお弁当を持って行き、
服もいつもユニクロで、
かなり節約していた。
10年間で500万円は貯めていたのだ。

私はすぐに銀行に行き、700ドル出した、
余分の100ドルは彼にあげるためだ。
ロイヤルバンクの私名義の口座には残りが3000ドルあった。
また少しだけ日本の口座からこっちに移さないと、、
などと考えていた。

彼は今夜は私と一緒に過ごすと言ってくれた。
彼は余分の100ドルをすごく嬉しそうに受け取ってくれた。
私も嬉しかった。
将来彼と一緒にいられるなら、
安い保険代だった。
その日の夜はロマンチックだった。
クラシックを聞きながら、彼はずっと私の肩を抱いててくれた。
何かが心のなかで引っかかっていたが、
それが何かを考えると、
今の幸せが逃げそうなので考えないようにした。

朝起きると、彼の姿はいなかった。
まだベットには彼のぬくもりが残っていた。

いつもと変わらない朝なのに、
なんだか自分の部屋がいがんでみえた。

昨日心に引っかかっていたことを
熱いコーヒーを飲みながら考えた。

私は彼の連絡先を知らないことに気づいた、
家の住所も、仕事先も何も知らなかった。
彼のファミリーネームもしらなかった。

知っていたのは「ジョン」という名前だけだった。

第13話、ひとり

1週間たっても彼から連絡はなかった。
こっちから連絡しようにも
連絡先もわからなかった。
彼が在学しているUBCにも電話したが、
プライベートなことは一切答えられないと
断られた。

彼がいなくなった朝、
いつもかばんに入れてある財布がテレビの上にのっていた。
怖かったが、中を調べると、
ビザカードがなかった。
そうお決まりのように、お金が誰かによって2000ドルほど
引き出されていた。
すぐにカードは止めた。

2週間すぎても彼は帰ってこなかった。

毎年クリスマスは、家族と過ごしていた。
シングルの女友達と過ごすという手もあったが、
私は誰も誘わなかったし、誰も私を誘わなかった。
そう、恋人同士がいっぱいいるレストランなんかで
食べたって、惨めになるだけ、
イブの日はそそくさに家に帰り、
母が用意していたケーキをいつも食べていた。
惨めだったが、誰かがいつも側に居てくれた。

今年は全くの一人だった。
彼と過ごすとクラスの子たちには言ってあったので
だれも誘ってはこなかった。

ウサギちゃんはマイクの実家のあるビクトリアにクリスマス、
正月は過ごすと言っていた。

どうしてこうなったのかわからない、
本当は私がビクトリアに行って彼の家族に紹介されるはずだった。
そして将来を誓い合えたかもしれなかったのだ。

現実は、また一人ぼっち。

暗くなった部屋にクリスマスツリーのライトをつけた、
冷蔵庫には何もなかったのでカップラーメンの
ふたをあけた。

あまり悲しくはなかった。
涙もでなかった。
強くなったというよりも
無感覚な女になったのかもしれない。

「幸子 は home alone」
こんな寂しい部屋にはサンタだって来たくないだろうな、、
なんだか寒かった。

第14話、黒い影

新しい年の始まり、
新しいことを始めようと思った。

色んなことを考えずに住むかもしれないと、
ボランティアをはじめようと思った。

私の英語力でみつけるのはちょっと大変かな、
と思っていたが、案外簡単に見つかった。
ダウンタウンのハズレにある、小さなパン屋さんだった。
オーナーはとっても良い人で
アンダーテーブルでいくらかお金をくれると言ってくれた。

お金なんてどうでもよかった、
もちろん必死に貯めたあのお金で十分暮らせていけるからだが、
何よりも、お金は私を幸せにできないと悟っていたからだ。

オーナーには日本人の奥さんがいた、
それにハーフの5歳の子供もいた。
かわいい女の子だった。
たまに店に来たりするので、
暇なときは一緒に遊んだり、
パンを食べたりした。

そんな楽しいひと時も、あまり長くは続かなかった。
オーナーといると、
なんか嫌な気分になったのだ。
それはなんと説明していいかわかんないが、
ただ、暗い暗い闇みたいなものが、
遠い過去から押し寄せてくるような気分だった。

最初の頃は、私が来ると、オーナーは私に任せて、
外に配達に行ったりしていたのだが、
しばらくすると、よく店にいるようになった。

オーナーは中年で、お腹が出ていて頭がはげていた。
まったく私のタイプではなかった。

ある日、店が終ったあと、オーナーに
バーに行こうと誘われた。

「他の友達もくるんだよ、一緒にどう?」 友達は待っても待っても来なかった。
その夜は二人でずっと飲んでいた。
あの暗い闇は、私の周りをすでに覆っていた。

「あの暗い闇って、過去の消したい私だったのね、、」

悟ったときには遅かった、
オーナーの手は私の手の上にあった。
丸くてぷよぷよした暖かい手、、、
振り払うことができなかった。

オーナーは送っていくと言ってくれたが、

「i want to breathe cold air,,,」

と言って一人で帰った。

暗い闇はどこまでもどこまでも私の後を追ってきた。

逃げれるかどうかわからなかった。

第15話、星空

それからもお店を続けたが
居心地が悪かった。
オーナーは客がいないといつも私の体全体を
舐めまわすように見ていた。

「早く辞めないと、、、」

そんなことをずっと考えていた。

その日は晩御飯に誘われた。
断ったが、押しに押されて行くと約束してしまった。

美味しいと有名なフレンチのお店に連れて行ってくれた。
かなり口当たりのいいワインを頼んで、
気がつけば2人で2本も空けていた。

かなり酔っていたのかもしれない、
気がつけば、お店の裏にあるカウチの上にドン、と
座らされた。そのまま横にごろんとなると、
体が液体になって、カウチにしみこんでいく様な
そんな感覚を体全体に感じた。

目を閉じていると、急に
体の上に大きく重たいものがのしかかってきた。
その大きなものは私の唇をもふさいだ。
私はおもいっきり全身の力を出して
その大きく重たいものを跳ね除けた。
その大きなものは壁にぶち当たり、そのまま
たたずんでいた。

気がつけばロブソンどおりをあるいていた。
黒いパンストには何本かの電線がいっていた。
その電線が、
ついさっきあの店で何が起ったかを物語っていた。
ただただ自分が情けなかった、

それからその夜は家に帰りつくまで
ずっとマイクのことを考えていた。
空を見上げて月をみた、
星がいっぱいだった。
その日は素直に空が綺麗だと思えた。

すごく会いたかった。

第19話、会いたい

クラスメートのぞうさんとは仲がよかった。
彼女も29歳とあって、
二人で仲間意識みたいなのもあった。
それに年が近いというのもあり、
話しやすかった。

彼女はよくうさぎちゃんの悪口を言っていた。

あの上目使い気持ち悪いよね~あれで男がだまされるん
だから、男って馬鹿だよね~
あれだけ腹黒い女もそうそういないよ。」

ぞうさんのこんな言葉を聞くたびに、
ちょっとだけ心が安らいだ。
きっとゾウさんもそれを知って言ってるんだとも
分かってた。

ある日、授業が終わり
バスに乗って帰ろうとしているとき、
ゾウさんが血相変えて私の方に走ってきた。

「ちょちょちょっと!幸子、聞いた~~?」

「え?何を?」

うさぎちゃん別れたんだよ、マイクと~!」

「え?」

うさぎちゃんが別れ切り出したらしいって、
真由美がそうはなしているの、今聞いたの!」

乗ろうとしていたバスを見送った。
すごく落ち着かない自分がいた、
心臓もバクバクしてきていた。

目から少しだけ涙がでてきた、、、。
ただただどうしていいかわからず、
しばらくたたずんでいた。

忘れたはずなのに、
まだ彼のことをすごく慕っている自分に気づいた。
やっぱり彼を愛していた。

でも自分の気持ちを悟るのが怖かった。
悟れば
また傷つくんじゃないかと思っていたからだ。

バスから降りてくる人の肩が私に当たっていった。
沢山の人に囲まれていたのに一人ぼっちだった。

第20話、夕日

その週末は家にいた。
一度だけぞうさんとお茶したが、ほとんど家にいた。

何もしてなかった、
ただただ電話を眺めていることがほとんどだった。

あの時もそうだった、
実家の自分のベッドにごろんと横になり、
その横によく携帯電話を置いていた。
何も手がつかず、ただ一本の電話だけを何もせずに待っていた、
運がよければ週末でも数時間会えたからだ。
ただただ長い時間がすぎた、
来るか来ないか分からない人を待つ時間。
きっと奥さんは気づいていたに違いない。
知ってて知らぬ振りをしていた、
そう、家庭を守るためだった。

私はどうしていつも負け犬側にいるんだろう?
どうすれば、なにをすれば、
どうがんばれば勝ち組にいけるのだろうか?
今の私には検討もつかないぐらい難しいことに思える、
いや、難しいというよりも
私には絶対にいけない場所になっている、、。

気がつけば夕方になっていた。
夕日が強く私の部屋に差込み、
私の白い電話がオレンジ色になっていた、
綺麗ないろだったのに、
そんな色の電話をみると心が苦しくなった。

今日も終っていく、
オレンジ色の部屋には、老いてくたびれた私がいた。



                    、続く


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